森で見つけてもスライムフラックスは食べないほうが良いかも

公開日: 2026年4月25日 5時59分 2171文字 11分間

SNSで拡散されている「スライムフラックス(樹液のオレンジ色の塊)は食用や酒造りに使える」という情報は、竹の樹液に関する記述や毒性への注意が欠落した、誤解に基づくものである可能性が高いです。当該の菌類には毒素を産生するものや感染症を引き起こすものも含まれるため、外見だけで判断して口にすることは非常に危険です。

はじめに

昨晩はストーブをつけ忘れて寝たので、温まるまでの間いつものように布団の中でTwitterを見ていたんですが、なかなか興味深い写真が流れてきました。

どうやらスライムフラックスというらしく、樹液と自然界の菌が反応して起こっている現象だそうです。

少し気になったのでこのツイートの引用も眺めていたのですが…

なんと、食べたという人の引用が。「制御できない色んな菌が培養されてる樹液なんて、流石に危険じゃないのか?」と思ったので、詳しく調べてみることに。

情報源

Twitter上で樹液酵母+パン+ビール(あるいはお酒)と検索すると上記の引用リツイートと同じ旨の、このオレンジ色のスライムフラックスを使ってパンやビールが作れるらしいという言説が複数見つかりました。

調べてみたところ、おそらく情報源はこちらのブログ 色即是空さんだと思われます。

このオレンジ色は、主にフサリウム・アクエイドゥクトゥムFusarium aquaeductumという菌類の色だそうです。竹だけでなく、樹木の切り株や枝が折れた後も同様な状況になることがあります。 このような状態をスライム・フラックスというそうです。          深澤 遊(東北大学大学院農学研究科)

ごく簡単に言うとカビの一種ということらしい。 (中略) それでも他の項を見たら、「樹液酵母といい、これには糖分が多く含まれ、これを原料にお酒を造ることもできるし、お酒が自然に醸造されることもあるようだ」とも。 さらに他を覗いてみたら「舐めたり、食べたりした」ともあり、物好きな人もあるものと思いましたが、樹液酵母を使って天然酵母のパンを焼いたり、樹液酵母のビールなどもすでに商品化されているともあったので、あながち無謀なことでもないようでした。

内容は「樹木についているこのオレンジ色のものはカビの一種あるいは樹液酵母であり、糖分が多く含まれていてこれを用いたパンやビールが商品化されている。」というもので、Twitter上で散見された言説と一致していることがわかります。

こちらの文章について精査したところ、どうやら複数の文脈の文章が入り混じっているらしいということがわかりました。一つずつ見ていきましょう。

深澤氏の引用

ブログ内で引用されている深澤氏の記述については、下記の日本植物生理学会のウェブサイトに寄せられた質問に対する回答のようでした。菌類の同定については後述します。

樹液酵母

樹液酵母といい、これには糖分が多く含まれ、これを原料にお酒を造ることもできるし、お酒が自然に醸造されることもあるようだ

この部分については、書き方から下記の個人ブログ 古本まゆさんから引用していると推定されます。

しかし文面こそ似ているのですが、文章の内容には大きく違いがあります。

竹の樹液(草ですがここでは樹液ということで)には糖分が多く含まれ、これを原料にお酒を造ることもできるし、お酒が自然に醸造されることもあるようです。

赤色の樹液酵母に記述した後にこのように説明しているため混同してしまったようですが、「糖分が多く含まれ〜」以降の文章は樹液酵母ではなく竹の樹液についての説明になっています。

「舐めたり、食べたりした」、商品化

こちらの部分については、同じようにパンやビールを挙げて商品化について言及しており、その後に舐めた経験について記述していることから個人ブログ モリモリキッズさんからの引用で間違いないと思います。

そこにフザリウム属の赤カビが付着して繁殖しコロニーを形成したものです。酵母が発酵したものですから、天然のお酒ができることもあるわけですし、赤カビに毒性がなければ食用にすることもできるわけです。樹液酵母を使って天然酵母のパンを焼いたり、樹液酵母のビールなどもすでに商品化されているようです。

舐めたのは、中の白いところをほんの少し。

原文では「赤カビに毒性がなければ」という注意を踏まえて記述されているようです。

まとめ

カビの一種や天然酵母だと考えられるという部分には間違いはありませんが、途中で竹の樹液に関する記述が混じっており、毒性の有無についての注意も取り除かれているということがわかりました。

Twitter上で拡散されている情報でも同様に糖度が高いと表記されていたり毒性についての表記がなかったりと、同様の誤りが見つかったので、やはりこちらの曲解された情報が拡散されていると見て間違いないようです。

菌種の同定について

結局のところこのスライムフラックスとされるものに毒性があるのかどうかですが、まず結論としては菌種の同定を素人がしてはいけないということだと考えます。

それを踏まえた上でどのような菌の可能性があるのか調べてみたのですが、日本語版Wikipediaのフザリウム 樹木上のアカカビの項では、Fusarium aquaeductuum とされると示されていますが、

なお、湿ったところに赤い色で繁殖するのはこのカビだけではない。不完全酵母のロドトルラ (Rhodotorula) などの場合も多いので、外見だけでの判断はできない。

と、Rhodotorula の可能性もあると記述されており、英語版WikipediaのFusicolla merismoidesでは、“deer vomit”や”fungal volcano”と呼ばれているこのオレンジ色のものは当菌種であるとしています。

これらの種が毒性についてですが、 Fusarium aquaeductuum の属するフザリウム属はほとんどが無害ですが赤かび病菌など強い毒素を持つマイコトキシンを生産する種が属していることで有名です。また、 Rhodotorula の一部の種については人間や家畜への感染が確認されており、 Fusicolla merismoides は植物へ病害を与える可能性が報告されています。

これらの菌を含め、挙げられていない未知の菌の可能性もある事を考えるとリスク評価はかなり難しそうです。

おわりに

今回は、Twitterの投稿で興味を持った事をスタート地点として、誤った情報が拡散していることとスライムフラックスを口にする事の危険性について調査してみました。

調べている中で酢酸イソアミルの香りから判別して甘いパンを作っている記事など、面白い情報も見つけることができましたが、こちらも得体の知れない菌を口にする以上リスクがありますので油断してはいけませんね。

私の結論としては、「森で見つけてもスライムフラックスは食べないほうが良いかも」ということです。